このページでは、各研究成果を解説します


避難シミュレーション 

【概要】

浸水等の災害時に,梅田地下街から地下街に隣接する接続ビルの概ね3階に,できるだけ短い時間で避難する際のマルチエージェントシミュレーション

【シミュレーションの条件】

問題設定:梅田地下街の平日夕方6時頃に災害が発生したとして,地下街の接続ビルに一斉に垂直避難を行う.

歩行者数:地下街の路上と地下鉄のホームの歩行者を合わせて14,782人

【方法】

Step1:避難完了時間を最小化する垂直避難場所の領域分割

地下街の空間をネットワーク構造として,各垂直避難場所の目的フロアを根とする動的ネットワーク木を構成する.
そして,各ノードに歩行者を配置し,動的ネットワーク木から計算される各避難場所への避難完了時間を最小化するように木を分割する.(※1)

 

 (※1)分割アルゴリズムについては下記論文を参照

 

Step2:最適化された避難領域分割での避難シミュレーション

マルチエージェントシミュレーターの SimTread を用いて,Step 1で求められた
避難領域分割の中での避難シミュレーションを行う.

 

【論文】

Ryo Yamamoto and Atsushi Takizawa, "Partitioning vertical evacuation areas in Umeda underground mall to minimize the evacuation completion time",
The Review of Socionetwork Strategies, 13(2), 209-225, Oct. 2019,
10.1007/s12626-019-00037-1

※ 以下の 発表資料 で要点が説明されています.

【コメント】

避難誘導方法として一般的に使用される最短経路に基づく方法と比較して,本方法では7割程度時間で避難完了となる.
ただし避難誘導のしやすさを考慮すると,領域分割がやや複雑な形状となっているため,より単純で,かつ避難完了時間も短い領域分割が望ましく,今後の課題である.


グラフ列挙アルゴリズム 

【概要】

同型性を考慮した効率的なグラフ列挙アルゴリズムのフレームワークを開発した.
その応用例として区間グラフおよび置換グラフそれぞれに対するアルゴリズムを設計し,実装した.
本プログラムにより,本質的に異なる区間グラフおよび置換グラフを効率的にすべて出力することができ,計算機実験におけるテストデータの作成や,グラフクラスの性質の発見が期待できる.

 

【論文】

Kazuaki Yamazaki, Toshiki Saitoh, Masashi Kiyomi, and Ryuhei Uehara:

“Enumeration of nonisomorphic interval graphs and nonisomorphic permutation graphs,”

Theoretical Computer Science, to appear, May, 2019.  (DOI:10.1016/j.tcs.2019.04.017)

【プログラムについて】

プログラムは Github からダウンロードできる.
ダウンロードしたファイルを展開し,コマンドラインから make を実行すると,実行ファイル「main.exe」が得られる.その状態で直ぐ使用できる.

次のように頂点数(整数)を引数にして「main.exe」を実行すると,結果ファイルが出力される.
    区間グラフの場合: $ ./main.exe -n 5
    順列グラフの場合: $ ./main.exe 5
出力ファイル名は前者が「interval_disconnected_[N].out」,後者が「permX.dat」.ファイルを開くと,1行に1つずつ数字列が並んでいるが,その1つずつの数字列が,正規化された区間グラフまたは順列グラフに対応している.

【実行例】

頂点数とグラフの種類を選んで「表示」ボタンを押すと,列挙結果 (※2) が右キャンバスに表示される.

 

  (※2)予め計算しておいた列挙結果の先頭 最大16個.

 

  頂 点 数:

  グラフ種類:

    

表示数/列挙数

 

※ 以下に列挙結果が図示されます.

これは,本プログラムを使って予め計算しておいた列挙結果を,ImageMagick で図式化したものです. 頂点数が多くなるに従って列挙数が大きくなるので,その場合は先頭の16個だけを表示します.


【ダウンロード】

プログラムの開発環境一式は,以下のサイトからダウンロードできる.プログラムは C++ で書かれており,その中で Fabien de Montgolfier によるモジュラー分解の実装を利用していることを注記しておく.


画像ノイズ除去 

【概要】

ガウス型マルコフ確率場(ガウシアングラフィカルモデル)を基礎とした画像ノイズ除去のプログラム.
原画像に独立にノイズが付加された複数枚の画像を用いて,EMアルゴリズムによるハイパパラメータ推定を経て原画像を推定する.
従来法は近似アルゴリズムを採用しており,計算量は,画像中のピクセルの個数をnとする時,DFTを用いた方法で O(n^2),FFTを用いた方法で O(n log n)  である.

統計力学的な物理量の一つである自由エネルギーに着目し,近似なしで,かつ,線形時間 O(n) で解を得るアルゴリズムを提案した.この提案法のデモアプリを提供する.

 

【論文】

Muneki YASUDA, Junpei WATANABE, Shun KATAOKA, Kazuyuki TANAKA:

“Linear-Time Algorithm in Bayesian Image Denoising based on Gaussian Markov Random Field,”

IEICE Transactions on Information and Systems, 2018 Volume E101.D Issue 6 Pages 1629-1639

 (https://doi.org/10.1587/transinf.2017EDP7346)

【プログラムについて】

複数枚の劣化画像を用いて修復を行うアプリ.Windows OS 64ビット版の搭載されたPCに下記URLからダウンロードし,解凍すれば,直ちに使用できる.

 

動作は次の2段階で実行される.

  1. 元画像(image/original_imaga.pgm)にガウスノイズを付加して複数枚(K枚)の劣化画像を生成. 生成された劣化画像は image/noise_image フォルダに保存される.
  2. 生成した劣化画像を用いて,添加されたノイズを除去し画像を修復する.修復画像は image/restored_image.pgm として保存される.

 (制約)

  • 必ず Windows OS 64ビット版の上で走らせること.
  • 対応する画像形式は pgm 形式のみ.
  • さらに,たて横サイズが等しい画像にのみ対応.
  • 元画像,修復画像のファイル名は固定.したがって
  • original 以外の画像を使う時は original.pgm にリネイムすること.

【テスト用画像】

テスト用のモノクロPGM画像を何枚か用意しました.同じ画像でサイズの大きいものと小さいものがあります.
ダウンロードして自由に使えます.

 

画像ファイルを一括ダウンロード

 

※ 以下にプログラムの実行結果が図示されます.

これは,3種類の画像に対して本プログラムを実行した結果です.Kσ には適当な値を設定しています.


【ダウンロード】

プログラムは,Windows OS 64ビット版対応の実行形式で提供される.

以下のリンクからダウンロードできる.

    画像ノイズ除去プログラムへのリンク

ストリームデータ高速圧縮 

【概要】

データストリームを一時的に溜めることなく連続的に圧縮・復号化可能な、高速データ圧縮技術 LCA-DLT (※3) を開発した.
この技術は,リアルタイムに,理論的にはデータを1/10 のサイズにまで縮小でき,従って,銅線や光ケーブルなどの伝送媒体を変更することなく,ネットワークなどの通信速度を最大10 倍高速化できる.
この技術により,ビッグデータを扱う機器のデータ伝送路の通信性能,および,ストレージのデータ保存容量を格段に飛躍させることができ,ライフログなどの次世代アプリケーションをコンパクトに実装できるようになる.

 (※3)LCA-DLT(Lowest Common Ancestor-Dynamic Lookup Table)

【動画説明】

LCA-DLT を実装済の FPGA を搭載した「ストリームデータ圧縮評価キット」(右図)を使った動画転送の実験動画.

評価キットを載せた Raspberry Pi を2台用意し,一方の Raspberry Pi(以下,RasPi と略記)でLCA-DLT 圧縮した4K動画を,Bluetooth を使ってもう一方の RasPi へ送信.受信側の RasPi で復号して表示する.

 

【論文】

Koichi Marumo, Shinichi Yamagiwa, Ryuta Morita and Hiroshi Sakamoto:

 “Lazy Management for Frequency Table on Hardware-Based Stream Lossless Data Compression,”

Information 7(4), 63, 2016-10

※ 以下は報道機関向けの発表資料.

【発展 ー LSI 化】

LCA-DLT を既存の FPGA に実装するというやり方では,LCA-DLT に使用しない FPGA の回路も通電されてしまうため,圧縮・解凍時の消費電力の有効性が十分に発揮できなかった.そこで,LCA-DLT を必要最小限の回路で構成される専用ハードウェアとして設計することにより,低消費電力なハードウェアの圧縮システムとして,180nmプロセスでの LSI(開発モデル ST-CLS-DC30-01)に実装することに成功した.チップサイズ 3mm角,端子数 64本の QFP パッケージ.

実際に,Raspberry Pi 上で LCA-DLT アルゴリズムをソフトウェアで実行し 4K画像の圧縮・展開を行ったところ,消費電力は圧縮時が 10.2mWh,展開時が 2.7mWhとなる.対して,開発した LSI を用いると,消費電力は圧縮時が約1/30 の 0.31mWh,展開時が約1/10 の 0.3mWhとなった.

 

【大学発ベンチャー】

この研究成果の実用化を目指し,2015年に筑波大学発ベンチャーとして『ストリームテクノロジ株式会社』が設立された.

※ LSI化に関する報道機関向けの発表資料.